静岡新聞:時評

新しい年度が始まってから一か月以上が経過し、心地よい季節になってきた。年度初めは社会全般にとって、重要なスタート地点である。これはスポーツにおいても同様である。進学や卒業、指導者の異動、チームメンバーの入れ替え、実施の時間や場所の変更など、スポーツ環境が変更になることが多い。こうした環境の変化がスポーツの実施に対して多大な影響を与えている。

近年、「子供の体力低下」が大きな話題となっている。文部科学省がまとめた1985年から2005年のデータを見てもこの傾向をはっきりと確認できる。

例えば、立ち幅跳びの9歳男子の結果は、85年158.8センチだったのが、この12年12.3センチも低下した。この成績は85年の女子の結果(147.3センチ)とほぼ同じである。他にもさまざまな項目で、体力・運動能力の低下が認められており、05年のソフトボール投げの飛距離は85年と比べ、男子は3.4メートル、女子は1.8メートル低下している。また、13歳男子における1500メートル走では、約17秒遅くなっている。こうした子供の体力低下は、学校外の学習活動や室内遊び時間の増加、外遊びやスポーツ活動時間の減少、「こどもにけがをさせたくない」といった過保護な考えを持つ保護者の増加などが原因として考えられる。

また体力が低下すると運動不足に陥りやすく、肥満になりやすい。学校保健統計調査によれば、ここ30年間に男女とも肥満傾向児が増加し、特に男子では各年齢層とも約2.3倍に増加している。さらに体力低下の影響として、気力の低下や社会を支える力の減退といった健康以外の問題もあげられており、社会全般に悪影響を及ぼすことが想定される。

環境変化 前向きに対応

私は全国各地でスポーツ教室を行うが、運動能力の低下はもちろんのこと、立っていられない、集中力が持続せず人の話を聞けない、といった参加者が増えていることを肌で感じる。また私の勤務校では、伝統的に体育の授業において身体測定と運動能力の測定を実施しており、この測定結果を見ても大学生の体力低下も顕著になっている。体力低下は子供の世代だけに限らず、青年期においても同様と言えるだろう。

こうした問題を解決するには、運動をする機会および環境を上手に与えることが必要である。実際にあまり認知されていないが、公園やスポーツ施設の増加や、学校体育施設の貸し出しの推進など、スポーツ実施環境の整備は進んでいる。またクラブやスポーツ教室など、スポーツをする機会もかなりの数が提供されている。新たなスポーツの実施環境に出会いやすいこの時期に、スポーツ環境について知ってもらい、大人も子供も自分に合う環境を見つけ出して、積極的にスポーツに取り組んでもらうことを期待したい。