静岡新聞:時評

現在、南アフリカでサッカーのワールドカップが開催されている。日本戦の視聴率が40%を超えるなど人々の関心も高く、チームの勝敗やパフォーマンスに一喜一憂している。トップレベルの競技力はスポーツの醍醐味の一つである。また競技力は政策としても重要視され、スポーツ振興基本計画の中に、「オリンピックにおけるメダル獲得率が、夏季・冬季合わせて3.5%になることを目指す」と具体的な目標が設定されている。だが、2006年のトリノ、08年の北京の両大会を合わせたメダル獲得率は2.15%となっており、目標は達成されていない。

競技力向上に対して将来性に最も大きな影響力を持つといわれているのが、幼少年期のトレーニングと言われている。近年、幼少年期のトレーニング方法についてのさまざまな研修や講習会が開催され、専門的な知識を有する指導者も増加傾向にある。こうした状況に対して子どもたちのスポーツ活動はどうかというと、自由に身体を動かすことができず、子ども特有の躍動感ある動きが見られなくなっているように思う。指導者から「教わりすぎ」で、自ら身体を動かすというより指導者に操作されている、といった印象を受ける。

また「運動神経の良い子」をあまり見かけなくなった。遊ばせても、色々なスポーツをさせても、自分の身体をうまく使いこなせる子が減少したと感じる。これと同時に、すぐにけがをする、筋力の低下、持久力の低下など、全般的な基礎体力の低下も見られる。また、子どもの頃からスポーツ種目の特化が低年齢化しており、多種多様なスポーツ種目を経験することも少なくなってきている。

運動神経全般の発達が鍵

今回のワールドカップでの世界のトップレベルのプレーには、どのスポーツにも共通する動きの迫力、躍動感がある。サッカーのトップ選手であると同時に運動神経の良さが目立ち、そしてほかの種目をやってもトップレベルに達したのではないか、という期待感を抱かせる。これは野球のイチローや陸上のボルトにも同様のことがいえる。つまり、運動神経の良さが一流のパフォーマンスにも大きく貢献しているといえよう。

運動神経は幼少期に発達させることが重要である。もっと運動神経全般の発達を目的とした基礎に目を向けることが、幼少期のトレーニングには大切ではないだろうか。「それぞれのスポーツ種目のトレーニングを通じて、“運動神経の良い子”を育てる」といった考えを持ち、そして子供たちがもっと自由に思い切って、身体を動かすことができるような指導方法が必要であろう。運動神経の向上が競技力の向上を導く、といった当たり前の考えに対する理解力が今よりも上がることを期待したい。